| 第11回 日本IVF学会 | |
| 平成20年10月11日~12日 大阪国際会議場3階イベントホール | |
| 精液所見における当院のsplit ICSIの適応基準 | |
| 橋本 洋美 英ウィメンズクリニック |
【発表の概要】
【はじめに】日本産婦人科学会の会告では、体外受精 ( In vitro fertilization; IVF ) の適応基準を、「これ以外の医療行為によっては妊娠成立の見込みがないか極めて低いと判断されるものを対象とする」としており1)、具体的には卵管性不妊症、乏精子症、免疫性不妊症、重症子宮内膜症、原因不明不妊症等の症例がその適応と考えられる。また、卵細胞質内精子注入法 ( Intra cytoplasmic sperm injection; ICSI)は、「男性不妊や受精障害など、これ以外の治療によっては妊娠の可能性がないか極めて低いと判断される夫婦を対象とする」とされ2) 、重症男性不妊例や受精障害例がその適応となるものと理解される。しかしながら、「妊娠の見込みがないか極めて低い」とする男性不妊あるいは受精障害の診断基準については具体的な精液所見の基準が設定されていないため、各施設が独自の適応基準を設けてIVFおよびICSIの適応を定めているというのが現状である。そのため、体外受精治療の割合が高い傾向の施設もあれば顕微授精治療の割合が高い傾向の施設もある。当院では、IVFで良好な受精率を期待できる症例にはなるべくIVFを適応するという考え3-6) のもと、IVF、ICSI、Split ICSIそれぞれの適応基準を設定し、日々の臨床に応用している。その結果、開院以来、IVF症例が全体の60%程度、ICSI症例は全体の40%程度であり、比較的IVF症例の割合が高くなっている。本シンポジウムでは、原精液所見に基づいて設定した当院における IVFの適応基準およびその基準から導かれたSplit ICSIの適応基準7) について発表し、さらに ICSIの適応基準についても発表する。
(1)IVFの適応基準について
―受精率と妊娠率の相関ならびに精液所見と受精率の相関から設定したSplit ICSIの適応基準―
得られた卵子を有効に利用するためには、良好な受精率を期待できることが前提となり、結果的に受精率はその後の妊娠率に影響を与えることになる。そこで受精率と妊娠率の相関について検討したところ、受精率が30%以下の症例では妊娠率に有意な低下を認めるという結果であった(図1)。このことから、妊娠率を良好に保つためには30%以上の受精率を期待できる授精方法を選択するのが望ましいと考えられる。そこで、IVFで少なくとも30%以上の受精率を期待できる精液のパラメーターを設定するため、IVFにおける受精率を原精液所見および Sperm Motility Index(SMI ) 別に解析した。またIVFで受精率が30%以下となった症例の原精液所見を後方視的に検討した7)。
(a) 原精液の精子濃度とIVF受精率:精子濃度2000万/ml未満ではIVFにおける受精率は50.0~53.8%であり、2000万/ml以上の症例におけるIVFにおける受精率の65.0~79.5%と比較して有意に低率であった。IVFにおいて受精率が30%以下となった症例の割合は、精子濃度 2000万/ml未満では41.7%と高い割合であったのに対し、精子濃度2000万/ml以上の症例では0~13%とその割合は低くなった (表1)。
(b) 原精液の精子運動率とIVF受精率:精子運動率が20%未満の症例ではIVFにおける受精率は0~29.6%であり、精子運動率20%以上の症例での IVFでの受精率66.8~76.8%と比較して有意に低率であった。IVF での受精率が30%以下となった症例の割合は、精子運動率20%未満の症例では50.0%と非常に高い割合であったが、精子運動率が20%以上の症例では 7.1~20.0%と減少した(表2)。
(c)原精液の運動精子濃度とIVF受精率:運動精子濃度が1000万/ml未満では58.3%の症例が受精率30%以下となったのに対し、運動精子濃度が1000万/ml以上では受精率が30%以下となる症例は5~12.2%と低くなった。
(d)原精液のSMIとIVF受精率:Sperm Quality Analyzer-V(SQA-V)を用いて原精液所見におけるSMIを測定し、SMIとIVF受精率の相関を検討したところ、IVF受精率は、 SMI50未満では55.6%であり、SMI50以上と比較し有意に低率であった (表3)。
以上の結果より、IVFにて受精率30%未満という低受精率症例の発生をさけるためには、IVFの適応を、精液濃度2000万/ml以上、精子運動率20% 以上、運動精子濃度1000万/ml以上、SMI 50以上、この4項目を全てクリアーできた症例とすることが望ましいと考えられた。
(2)SplitICSIの適応基準について
IVF の適応基準を、精液濃度2000万/ml以上、精子運動率20%以上、運動精子濃度1000万/ml以上、SMI 50以上、この4項目を全てクリアーできた症例と規定したが、これらの条件を1項目でも満たさない精液所見を呈する場合、IVFでは低受精率となる可能性が予想されるため、Split ICSIの適応としている。
(3)ICSIの適応基準について
原精液の所見に基づいてSplit ICSIを施行した95周期76例のうち、ICSIでは受精を得られたものの、IVFでは受精が得られなかったのは9周期であった。IVF受精率0%となる精液所見、すなわちICSIの絶対的適応となる精液所見を後方視的に検討した。
(a)原精液の精子濃度での検討:IVFで受精率が0%となった周期の割合は、原精液の精子濃度が500万/ml未満で33.3%(1/3)であり、原精液の精子濃度が500万/ml以上では8.7%(8/92)であった。
(b) 原精液の運動精子濃度での検討:IVFで受精率が0%となった周期の割合は、原精液の運動精子濃度が500万/ml未満では13.8%(4/29)であり、原精液の運動精子濃度が500万/ml以上では7.6%(5/66)であった。以上の結果から、原精液の精子濃度が500万/ml未満の周期では、 IVFで受精を全く得られない周期が30%以上と高くなり、また、原精液の運動精子濃度が500万/ml未満でも、IVFで受精を全く得られない周期が 10%以上出現することから、当院ではICSIの適応基準を原精液所見にて精子濃度あるいは運動精子濃度が500万/ml未満と設定している。当院での授精方法の選択基準を図2にまとめた。
【最後に】
当院では、IVFで良好な受精率を期待できる症例にはなるべくIVFを適応するという考えのもと、精液所見による授精方法の基準を設定し臨床に応用している。しかしながら、授精方法としてIVFを選択したものの全く受精を得ることの出来ない症例や低受精率の症例に遭遇することもあり、落胆することがある。今後も、授精方法の選択基準についてさらに検討を続けたいと考えているが、個々の症例における受精率を原精液の精液所見やSMIなどのパラメーターで正確に予測することには限界があると考えており、精子の受精能をより的確に評価できる検査法および新たなパラメーターについても検討して行きたいと考えている。
【参考文献】
1)日本産科婦人科学会会告.体外受精法の臨床実施に関する見解.日産婦誌,35,10 1983.
2)日本産科婦人科学会会告.顕微授精法の臨床実施に関する見解.日産婦誌,44,129-130,1992.
3) Yoeli R, Orvieto R, Ashkenazi J, Shelef M, Ben-Rafael Z, Bar-Hava I. : Comparison of embryo quality between intracytoplasmic sperm injection and in vitro fertilization in sibling oocytes. J Assist Reprod Genet. 25(1):23-8,2008.
4)Lie RT, Lyngstadaas A, ?rstavik KH, Bakketeig LS, Jacobsen G, Tanbo T. : Birth defects in children conceived by ICSI compared with children conceived by other IVF-methods; a meta-analysis. Int J Epidemiol. 34(3):696-701,2005.
5) Bonduelle M, Wennerholm UB, Loft A, Tarlatzis BC, Peters C, Henriet S, Mau C, Victorin-Cederquist A, Van Steirteghem A, Balaska A, Emberson JR, Sutcliffe AG.: A multi-centre cohort study of the physical health of 5-year-old children conceived after intracytoplasmic sperm injection, in vitro fertilization and natural conception. Hum Reprod. 20(2):413-9, 2005.
6)Dumoulin JC, Coonen E, Bras M, van Wissen LC, Ignoul-Vanvuchelen R, Bergers-Jansen JM, Derhaag JG, Geraedts JP, Evers JL.: Comparison of in-vitro development of embryos originating from either conventional in-vitro fertilization or intracytoplasmic sperm injection.Hum Reprod. 15(2):402-9 ,2000.
7 )橋本洋美、後藤栄、坪内美紀、泉陽子、吉村由香理、笠原優子、塩谷雅英、et.・al.・精液所見における当院のSplitICSIの適応基準.・J.Mamm Ova・Res.21:209-213.2004.