英ウィメンズクリニック

HANABUSA WOMEN'S CLINIC

研究開発・学会発表

診療・治療

第51回 哺乳動物卵子学会

  • 多前核が高頻度に見られた症例の治療経過と多前核胚の染色体解析
  • 平成22年5月29日(土)~30日(日) 朱鷺メッセ 新潟コンベンションセンター
  • 第51回 哺乳動物卵子学会
  • 水田 真平・後藤 栄・橋本 洋美・山田 聡・緒方 誠司・水澤 友利・松本 由紀子・


    苔口 昭次・塩谷 雅英




    英ウィメンズクリニック

【発表の概要】
【目的】
体外受精(IVF)および顕微授精(ICSI)を行い、翌日の受精判定において前核(pronucrei:PN)が3個(あるいはそれ以上)認められることがある。IVF後の3PN胚は2精子受精が主な原因と考えられる。2精子受精では精子中心小体が2つ存在するため,3極に紡錘体が生じ,分割様式が崩れてモザイクを生じやすくなる1)。ICSI後の3PN胚は、第2極体放出不全が多いと考えられており,この場合の染色体は3倍体になると考えられる2)。IVF、ICSIともに多前核胚で染色体異常胚の頻度が高いことが報告されている3)。今回我々は、IVFおよびICSI施行後に多前核胚が高頻度に見られる症例を経験した。本症例の治療経過及び多前核胚の染色体解析の結果について報告する。
【症例】
 妻37歳、夫45歳、妊娠歴なし。男性因子による不妊症のため前医にて顕微授精による治療を2周期実施、2回とも多前核胚が高頻度に見られた。この時、2PN胚由来の分割期胚を2個移植するも妊娠に至らなかった。
 その後当院を受診。年令因子および不妊原因を考慮し、当院でも治療方針をARTとした。1回目の治療ではアンタゴニスト併用法で調節過排卵誘発を行い9個の卵子が得られた。夫の精液所見は精子濃度5000万/ml、運動率62%と良好であったことおよび過去の治療歴を検討し、受精の方法としてIVFとIMSI(intracytoplasmic morphologically selected sperm injection)のスプリット法を選択した。9個のうち4個にIVFを行い、3個に受精を得た。このうち2PNは1個だけで、残りの2個はそれぞれ3PN胚と5PN胚であった。またIMSIを行った3個中2個に受精が見られたが、3PN胚が1個、5PN胚が1個と全て多前核胚であった。IVF後の2PN由来の分割期胚6-cell veeck分類grade3を1個移植するも妊娠に至らなかった。2回目の治療でも同様の調節過排卵誘発を実施し5個の卵子が得られた。精液所見は精子濃度6900万/ml、運動率39%であった。初回治療ではIVFで2PN胚を得ていたことから、2回目の治療では全ての卵子にIVFを行い、100%(5/5)に受精が見られた。この時うち2PN胚は1個のみで、残りの4個に多前核を認めた(3PN胚2個、4PN胚1個、5PN胚1個)。2PN由来の分割期胚5-cell veeck分類grade3をday6まで継続培養を行ったが、胚盤胞に発生せず胚移植には至らなかった。
【多前核胚の染色体解析の方法】
 2回のARTによって得られたIVF多前核胚4個とIMSI多前核胚2個を、患者の同意のもと、染色体解析の対象とした。多前核胚をday3まで培養し、0.8%プロテアーゼ中にて透明帯を完全に除去した後、割球が接着している状態でスライドグラスに固定を行った。染色体解析はFISH法にて行い、probeにはVysis社のCEP 18 / X / Y を用いた。
【結果】
IVF多前核胚4個(胚No.1-4)の固定を行った結果、No.1は間期核が認められなかった為FISHにて結果が得られなかった。No.2、No.3、No.4は無秩序のモザイクであった。IMSI多前核胚2個(胚No.5-6)の固定を行った結果、No.5は間期核が1個しか認められず、その1個は数的異常であった。No.6は無秩序なモザイクであった。
【考察】
本症例において、2回の治療で合計10個の受精卵を得ることができたが、そのうち8個には多前核が見られ2PN胚は2個だけであった。IVFとIMSIいずれにおいても高頻度に多前核が認められた為、多前核の原因は多精子受精ではないと考えられた。また、多前核由来胚の染色体解析の結果は、解析可能であった5個の胚のうち4個が無秩序のモザイクであり、核が1個のみ解析できた胚は染色体数的異常胚であった。このように本症例の多前核胚には全て染色体異常を認め、移植の対象となり得ないことが確認できた。
本症例では、2PN胚のうち1個を6細胞期で移植するも妊娠には至らなかった。一方、Dennisらは多前核胚が高頻度に見られた同様の症例で、わずかに得られた2PN由来の分割期胚を移植して出産に至ったことを報告している4)。このことから、高頻度に多前核が認められる症例においても2PN胚を得ることができれば妊娠の可能性があると考えられる。本症例においても今後は、卵巣刺激法の工夫などを考慮しつつ、2PN胚を得ることが出来るよう治療を進め、妊娠成立を目指し行きたいと考えている。
【文献】
1)Plachot,M.,et al.: Hum.Reprod.,4: 99-103,1989.
2)Palermo,GD.,et al.: Hum.Reprod.,10: 120-127,1995.
3)Staessen,C.,et al.: Hum.Reprod.,12: 321-327,1997.
4)Dennis,WM.,et al.:fertil.steril.,12: 321-327,1997.
 

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