はなぶさ ブログ

7月のおはな

2段階胚移植について(その4.)

脱線ついでにもう少し、当時のお話しをしたいと思います。

 

1988年代から1990年にかけて、野田助教授が率いる京都大学発生学研究室は、SODという酵素や低酸素培養を通じて酸素毒から受精卵を保護して胚盤胞まで培養する研究一色でした。

この研究によって、体外受精の成績も大幅に改善されることになりました。

 

例えば、当時体外受精でよく用いられていた培養液の内容をよく調べてみると、銅イオンや鉄イオンが含まれていました。

銅イオンや鉄イオンは受精卵に対する酸素毒性を助長する作用がありましたので、体外受精に用いる培養液には、銅イオンや鉄イオンを含まないものに変えました。その結果、体外受精の培養成績は大きく向上したのです。

 

ちなみに、なぜ銅イオンや鉄イオンを含む培養液が用いられていたかと申しますと、当時体外受精先進国であったオーストラリアでこの培養液が用いられており、その技術を輸入したためでした。もちろん今ではオーストラリアでもこの培養液は用いられていません。

 

話は元に戻りますが、読者の皆さんの中には、「動物は酸素を呼吸して生命をつないでいるのに、なぜ酸素が悪者になるのだろう?」と不思議に思っておられるかもしれません。実際、我々は生命維持に必要なエネルギーを得るため、細胞の中にあるミトコンドリアで絶えず酸素を消費しています。

ただ、この時、酸素の一部が活性酸素と呼ばれる毒性の高い状態に変換されることがあるのです。

 

「酸素」そのものが有害なのではなく、過剰な酸素状態から生み出される「活性酸素」が有害なのです。

原始の昔、地球の大気には酸素はほとんど含まれていませんでしたが、今から約35億年前に光合成を行う生物が誕生し、光合成の副産物として大気中に酸素が放出されました。この時、酸素から生じる活性酸素から身を守る術のなかった生物は絶滅せざるを得ませんでした。

そして、代わりに、酸素を利用して大量のエネルギーを作り出し、同時に酸素から活性酸素から身を守る術も持った生物が繁栄するに至ったのです。

 

図をご覧ください。

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霊長類の中で、我々ヒトはSODの活性が最も高く、その結果最も寿命が長い動物です。活性酸素は、体や卵子の老化とも深い関係が指摘されています。活性酸素から身を守ることがいかに重要か、よくわかると思います。

 

2段階胚移植について(その5.)に続く

 

(文責:[理事長] 塩谷雅英)

 

 

前回までの記事もご覧ください。

2段階胚移植について(その1.)

2段階胚移植について(その2.)

2段階胚移植について(その3.)