診療・治療
精子調整には様々な種類が存在し、精子調整方法も施設によって異なる。
2層密度勾配遠心法はswim-up法に比べると、臨床妊娠率が有意に高いという報告がある。
当院では人工授精を実施するにあたり、密度勾配分離法を用いて精液の調整を行っている。
精子調整液の違いによって精液所見や妊娠率に差が生じるのか調べるために、今回我々は精子調整用に市販されている比重が異なる3種類の調整液(以下A液、B液、C液(パーコール))を用いて、精液調整前後の運動精子濃度とその濃縮率、調整後の平均直線速度分類良好精子濃度、また人工授精後の化学的妊娠率を比較検討したので報告する。
2016年8月~2017年11月に人工授精を実施した患者のうち、原精液の総運動精子数が10×106以上を検討対象とした。周期数はA液:608、B液:561、C液:978で、計2147周期であった。検討項目として、各群の調整前後の運動精子濃度を算出し、その濃縮率、調整後の平均直線速度分類良好精子濃度、また化学的妊娠率について比較した。密度勾配液の調整法は、A液とC液はヒト血清アルブミンを10%添加したハンクス液を等倍で希釈し、B液はB液専用の調整液を等倍希釈した。調整方法は、3群の調整液に原精液を重層し、遠心分離(300g×20分)を行った後、上清を除去し、ヒト血清アルブミンが10%添加されたハンクス液、またはB液専用の調整液を0.5ml加えた。調整後、精子を測定し、人工授精を施行した。比重は標準比重計を用いて測定を行い、A液:1.106、B液:1.118、C液:1.124となり、A液が一番比重が低かった。また調整前後の精子の測定にはSMAS(精子運動解析装置)を用いた。
調整後の運動精子濃度は調整前と比較して、A液51.9%、B液27.3%、C液15.6%に濃縮され、A液及びB液の濃縮率はC液に比べて有意に高かった(p<0.05)。調整後の平均直線速度分類良好製紙濃度はA液がB液とC液に比べて有意に高かった(p<0.05)また人工授精後の化学的妊娠率は、A液7.4%、B液7.0%、C液6.5%であり、3群間での有意な差は認めなかった。
今回の結果より、調整後の運動精子濃度の濃縮率はC液に比べて比重が低いA液及びB液が有意に高く、運動精子をより多く回収する為に有用な密度勾配液であることが示唆された。人工授精後の妊娠率は密度勾配液による差を認めなかった為、今後は子宮内膜症や子宮筋腫合併症などの女性因子、また人工授精施行回数なども考慮し、より良い精子調整を模索していく必要があると考えられた。