診療・治療
【発表の概要】
【精液検査の現状】
精液検査には通常外来診療の一環として行う「一般精液検査」と、精子の機能を調べる特殊検査である「精子機能検査」がある。
一般精液検査は、精液量、精子濃度、運動精子濃度、運動率、奇形率、白血球などを調べる検査で、技術者が顕微鏡を用いて測定していく方法が一般的である。また、より客観的に評価する事ができる、Computer Assisted Sperm Analysis (CASA)やSperm Quality Analyzer (SQA-V)などの専用の機器で自動に検査する方法もある。更に、精子を染色して正常形態精子の割合を検査するクルーガーテストがある。このクルーガーテストはIVFの受精率や妊娠率に相関するという報告もある一方で、検査結果に技術者間で差が生じやすいなどの問題点も示唆されている。
精子機能検査は、生存検査、損傷検査、免疫検査、受精能検査等がある。生存検査は、不動精子に対して Eosin-Nigrosin又はEosin-Yで染色しViabilityの割合を簡易に調べる方法と低浸透圧液を用いて検査する精子膨化試験がある。損傷検査は、DNA fragmentationを検査するSperm Chromatin Dispersion (SCD) testやTUNEL assayがある。免疫検査は、抗精子抗体を調べる直接イムノビーズテストがあり、受精能検査は、ハムスターテストやヘミゾナアッセイがある。これらの検査は手技が煩雑である事や検査した精子を治療に用いることができない点などから一般的に普及していないのが現状である。
【当院における精液検査】
当院では、一般精液検査にはMAKLER™ COUNTING CHAMBERを用いている。また、SQA-V を用いて運動精子濃度に運動スピードを考慮して数値化したSperm Motility Index (SMI)を検査している。SMIは、IVFの受精率との相関が報告されており、当院では、SMIが50未満では、50以上と比較しIVF受精率が低率となった。更に、SQA-V で得られるSMI値はクルーガーテストの結果と相関していることがShibaharaらにより報告されている。
【ARTにおける精液検査の役割】
① ARTにおける受精方法の選択基準は、各施設で決められているのが現状である。当院では、受精率が30%以下の場合に妊娠率がそれ以上と比較し低率となった事から、受精率が30%以下となる精液所見(精子濃度、運動率、運動精子濃度)を検討し、受精方法の選択基準として報告した(Hashimoto et al. J Mamm Ova Res 2004)。原精液の精子濃度が2000万/ml以上、運動率20%以上、運動精子濃度1000万/ml以上、更にSMIが50以上の全てを満たす場合にIVFを、1つでも満たさない場合はsplit ICSIを、精子濃度又は運動精子濃度が500万/ml未満の場合は、ICSIを選択している。
② ICSI時の精子選別は、顕微鏡下200~400倍のホフマンモジュレーションコントラスト下で観察するのが一般的である。一方で、Bartoovらにより微分干渉コントラスト下で高倍率に精子を観察後、形態良好精子を卵細胞質内に注入するIntracytoplasmic Morphologically Selected Sperm Injection (IMSI)が報告され、当院ではICSI反復不成功症例に対して実施している。
【精液検査の将来】
精液検査で正常と診断した場合でも、体外受精の際に低受精率や、全く受精を得られない症例がある。あるいは、顕微授精を行っても全く受精を得られない症例もある。現在、臨床的に実施できる精液検査法では、これらの症例を予め正確に予測することは困難である。また、受精後の胚発生には精子側因子の関与も少なく無いが、やはり現状の精液検査では、受精後の胚発生を正確に予測することはできない。将来的には、精子の受性能や卵子活性化因子、そして精子DNA fragmentationの有無を迅速かつ簡便に測定できる検査方法の出現が待たれる。