診療・治療
【発表の概要】
【目的】
生殖補助医療において、胚培養士の果たす役割は非常に大きいものであるが、その育成プログラムとして決まったものはなく、各施設が独自に胚培養士の育成を行っているのが現状である。当院も試行錯誤しつつ、独自のプログラムを作成し、これに基づいて胚培養士の育成を行い、十分な成果をあげている。今回、当院における胚培養士育成プログラムについて報告する。
【方法】
当院の胚培養士育成プログラムでは、まず入職時に、①胚培養士育成プログラムについて講義し、②新人の教育担当者を決定し、③育成状況の進行度を確認する教育ファイルと新人の日常勤務を把握する業務日誌を配布し、最後に④配偶子及び胚を取り扱う上での責任のあり方について講義を行う。最後の配偶子及び胚を取り扱う上での責任のあり方について理解を促すことは、特に重要と考えているが、トレーニング期間中の新人胚培養士は、直接患者と接する機会が少ないこともあり、十分な理解が難しい傾向がある。当院における胚培養士育成プログラムでは特にこの点に力を入れている。
各種の技術指導においては、①技術レベルを統一していくため、マニュアルを参考に初回指導は統一した技術担当者が指導すること、②見学及びトレーニングの機会を十分に取る事、そして③指導者と共に業務を実施し、④自立する前には部長が個々の技術レベルを確認し、最後に⑤自立して業務を実施する。自立後は習得した技術において安定した成績が得られているかどうかチェックするために、顕微授精手技と胚凍結及び胚融解手技は、2ヵ月毎に指導者が技術レベルの確認を行う。さらに、毎月個人別治療成績を集計し、部長及び院長が確認を行っている。
各技術項目の技術習得期間の目安は次の通りである。入職後1年目で、精液検査、精子調整、培養液の準備、媒精、胚移動操作、胚観察まで、2年目には、採卵介助、受精判定、胚移植、精子・胚凍結、精子・胚融解を、3年目以降には、顕微授精において安定した成績を出せるようになること(表1)。技術の習得度は、個々の教育ファイルで管理している。そして習得状況が遅れがちなスタッフには、アドバイスし、かつトレーニングを促すようにしている。さらに3か月に1度、部長が面談し、一人一人の個性を大切にしつつ、技術習得目標を達成できるよう話しあっている。
【考察】
当院では、胚培養士として備えるべき一連の高い技術を3年間で習得できる胚培養士育成プログラムを策定している。しかし、一人一人の個性を尊重することも大切であると考えている。技術を早く習得することが必ずしも大切とは考えていない。重要なことは、習得にかかる時間ではなく、技術の質の高さと安定性であり、そして、胚培養士が実施する技術一つ一つが目の前にいる多くの患者の治療に多大な影響を与えるという自覚と責任感を養うことであると考えている。
生殖補助医療においては、胚培養士一人一人の技術がその治療成績に大きな影響を与える可能性がある。今後も、当院を訪れる全ての患者に最善の治療を提供できるように、高い技術レベルと強い責任感を備えた胚培養士の育成に力を入れていきたい。