診療・治療
【目的】
これまでヒトの体外受精治療においては、一般的に胚発育速度の速い胚が妊娠率、生児獲得率の高い良好胚とされ、移植胚の選別に胚発育速度をパラメーターとする胚評価方法が頻用されてきた。一方、ヒトや動物において胚発育速度は性別によって異なり、男性の胚が女性の胚よりも速く発育することを示唆する先行研究は多い。そこで今回我々は、胚発育速度が出生時性比に影響するかについて、単一胚移植症例を対象として後方視的な検討を行った。
【方法】
2008年1月より2009年12月の間に当院にて単一胚移植後に生児を得た症例で、出生後の調査により性別が判明した819症例を対象とした。出生時性比は男性/女性と定義した。まず胚盤胞移植と分割期胚移植との間で出生時性比に差があるかについて、Fisherの正確確率検定により検定した。次に出生時性比を従属変数とし、Gardner分類による胚盤胞のグレード(G1~G5)を独立変数としたロジスティック回帰分析を行い、オッズ比などのパラメーターについて検討した。
【結果】
胚盤胞移植と分割期胚移植を比較した場合の出生時性比のオッズ比は1.20(95%CI:0.79, 1.83)と胚盤胞移植でやや男児が多い傾向がみられたが、有意差は認めなかった。胚盤胞のグレードに対する出生時性比のロジスティック回帰分析より、グレードが1上がるごとの出生時性比のオッズ比は、1.36( (95%CI: 1.11, 1.65)となり、胚盤胞発育が速い(Gardner分類のグレードが高い)ほど、出生時性比が高くなることを示す結果となった。
【結論】
この結果から、男性の胚の発育速度が女性の胚の発育速度よりも速い可能性があること、また、胚発育速度による胚の評価に基づいた移植胚の決定が、出生時性比に影響する可能性があることが示唆される。