診療・治療
【目的】
ARTにおける精子調整方法には、密度勾配遠心分離法(以下DGC法)などが用いられるが、遠心分離を伴う調整方法では精子に対して物理的ダメージやDNA損傷を与えることが懸念されている。近年、遠心分離を行わずにマイクロ流体技術を利用して良好運動精子を選別する装置が登場している。今回我々は上記の技術を用いた装置である「Swimcount™Harvester,1mL(以下Harvester)」(Motility count社)、「Zymōt™Multi(850μL) (以下Zymōt)」(CooperSurgical Japan)とDGC法の3群で培養成績の比較検討を行った。
【方法】
2024年3月から2025年1月において、原精液の精液所見が運動精子濃度8.0×10⁴/ml以上かつ精液量3.0ml以上、ICSI適応となった21周期(回収MⅡ卵数3個以上)を対象とした。精液をHarvester(Ha群)、Zymōt(Z群)、DGC法(DGC群)のそれぞれ3つの方法に分け調整した。さらに、同一症例の卵子を無作為に3群に分け、それぞれの方法で調整した精子を用いICSIを行った。培養成績は受精率、正常受精率、分割率、良好分割率、胚盤胞発生率(Day5)、良好胚盤胞率(Day5)を3群間で比較した。統計解析にはボンフェローニ補正を行ったカイ二乗検定を用いた。なお、良好分割胚はVeeck分類における4cellG2以上、良好胚盤胞はGardner分類におけるG3BB以上とした。
【成績】
Ha群、Z群、DGC群それぞれの培養成績は受精率(89.8% vs 94.2% vs 84.8%)、正常受精率(78.0% vs 86.5% vs 78.3%)、分割率(90.6% vs 100.0% vs 100.0%)、分割期良好胚率(58.3% vs 63.3% vs 64.1%)、胚盤胞発生率(72.9% vs 63.8% vs 63.2%)、良好胚盤胞率(65.7% vs 76.7% vs 62.5%)となり、いずれの群においても有意差は認めなかった。
【結論】
本検討では、3群間に有意な差は認めなかった。この結果は、反復不成功例やSDF値高値などの患者背景を考慮していなかったことが一因であり、これにより培養成績に差が生じなかった可能性があると考えられる。一方で、作業効率の点においてHarvesterやZymōtは遠心操作が不要で、作業工程も少ないためラボワークの改善が期待される。今後は患者背景を考慮したうえでさらに症例数を増やしていき、各症例の精液所見に応じて適切な手法を選択することが重要である。