英ウィメンズクリニック

HANABUSA WOMEN'S CLINIC

研究開発・学会発表

診療・治療

生殖バイオロジー東京シンポジウム

  • 二段階胚移植
  • 平成18年7月16日 シェーンバッハ・サボー(砂防会館別館・東京都)
  • 生殖バイオロジー東京シンポジウム
  • 後藤 栄(シンポジスト) 
    英(はなぶさ)ウィメンズクリニック

【発表の概要】

着床周辺期の胚と子宮内膜には緊密な双方向性のシグナル交換が行われていることはこれまで多く施設から報告がなされている、さらに、卵管または子宮に胚が存在することにより、子宮内膜において着床に向けた局所環境の修飾が促進されることが動物実験により示されている。この原理を臨床に応用すべく考案した移植法が二段階胚移植(two-step embryo transfer)である。二段階胚移植では受精後2日目(day2)と5日目(day5)に2回に分けて胚を移植する。day2に移植する初期胚が子宮内膜を修飾し、day5に移植される胚盤胞に着床しやすい子宮環境がもたらされることを期待した移植方法である。

1)胚を4個以上有する周期に対する二段階胚移植

1999年に初めて二段階胚移植を発表した後数年間は、day2に胚を4個以上有することを二段階胚移植の適応基準とし、day2に2個の初期胚を移植し引き続きday5に1個の胚盤胞を移植する(合計3個の胚移植)方法を基本プロトコールとしていた。
このプロトコールで二段階胚移植を施行した124周期について2003年に誌上報告を行った1)。day2に3個の初期胚を移植した60周期と(初期胚群)、day2に2個ひきつづきday5に1個の胚を移植した二段階胚移植(二段階群)124周期を比較した。二段階群において、day2の移植後、継続培養にて胚盤胞または桑実胚が得られなかった場合はday2の移植はのみとし二段階群に含み検討した。その結果、妊娠率は二段階群で59.7%であり、初期胚群の30.0%と比較して有意に高率であった。胚あたりの着床率は二段階群で27.8%であり、初期胚群の11.1%と比較して有意に高率であった。二段階胚移植を予定し一段階目の移植は行ったが、継続培養にて胚盤胞が得られず二段階目の移植がキャンセルになった周期は10周期あったが、このうち2周期が妊娠に至った。多胎率は二段階群で25.7%であり、初期胚群の11.1%と比較して有意差はないものの高い傾向がみとめられたため、現在では、二段階胚移植の総移植胚数を2個に制限している。

2)胚が2個しか得られない周期に対する二段階胚移植

当院において、採卵周期あたり獲得胚数が3個以下の周期は約半数を占めている。以前は、このような胚数が少ない周期には初期胚移植を行っていたが、 2002年から胚が2個しか得られない周期に対しても、day2に少なくとも1個は形態良好胚であれば二段階胚移植の適応とした。胚が2個の周期に対して、二段階胚移植は初期胚移植と比較し有用な移植法か否かを後方視的に検討し、2005年に誌上報告した2)。二段階胚移植を施行した90周期と(二段階群)、初期胚移植を施行した90周期(初期胚群)を比較した。その結果、二段階群において39周期が二段階目の移植がキャンセルになった(キャンセル率 43.3%)が、キャンセル周期を含めても臨床妊娠率は二段階群で33.3%であり、初期胚群での20.0%と比較して有意に高かった。胚あたりの着床率は二段階群で17.2%であり、初期胚群の9.4%と比較して有意に高率であった。二段階群のキャンセル周期39周期のうち4周期は一段階目の移植だけで妊娠に至った。多胎率は二段階群で3.3%(1周期)であったが初期胚群の0%と比較して有意差はみとめなかった。
二段階胚移植が初期胚移植より妊娠率が高くなる理由の一つとして、継続培養を行うことにより移植胚の選別ができ、着床率が高い胚盤胞を移植することができることが考えられてきた。一方、胚が2個しかない周期に二段階胚移植を行う場合、day2とday5に分けて胚を2個とも移植するため、継続培養により移植胚を選別できるという利点はない。したがって、胚が2個の周期に対して二段階胚移植の方が高い妊娠率を得ることができた理由として、胚と子宮内膜との同期性や相互作用といった胚の選別以外の因子の関与も推察される。

3)胚が1個しか得られない周期に対する二段階胚移植

胚が1採卵周期あたり1個しか得られない症例では、移植の方法は初期胚移植を選択することが多い。当院において、獲得胚が1個の症例での初期胚移植 151周期の検討では、妊娠周期は11周期であり、移植周期あたり妊娠率は7.3%であった。11周期のうち9周期が移植周期5回目までに妊娠しており、 5回目までの累積妊娠率が81.9%となった。移植6回目以降では移植周期あたり妊娠率は3.4%と低率であった。そこで、移植5回目までに妊娠に至らなかった症例に対し、採卵毎に胚を凍結し、3ないし4個の胚が凍結保存できた時点で融解し二段階胚移植を施行した。その結果、移植あたり妊娠率が28%に上昇した。

適応について
二段階胚移植は胚を少なくとも2個移植するため、多胎を完全に予防することは出来ない。したがって、当院では、年齢、既往ART回数、胚のグレードなどから妊娠予後良好と判断される症例に対しては単一胚移植を考慮し、2個(または3個)の胚を予定する症例に対しては二段階胚移植を施行する方針をとっている。

参考文献

1)Goto S, Takebayashi K, Shiotani M. et al.: Effectiveness of 2-step (consecutive) embryo transfer. Comparison with cleavage-stage transfer. J Reprod Med 2003; 48: 370-4.
2)Goto S, Shiotani M., Kitagawa M. et al. : Effectiveness of two-step (consecutive) embryo transfer in patients who have two embryos on day 2: comparison with cleavage-stage embryo transfer. Fertil. Steril. 2005; 83: 721-723.

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