診療・治療
【発表の概要】
【目的】IVFおよびICSI施行翌日の受精判定時に前核を1個しか認めない胚(1PN胚)がある。1PN胚の発生機序について一致した見解は得られていない。IVF 1PN胚は48.7-61.9%が2倍体で、ICSI 1PN胚は9.5-27.9%が2倍体であったと報告されているが、移植の対象としない場合が多い。しかし、既報告の多くが分割期における染色体解析であるため、我々は胚盤胞に発生した1PN胚の染色体の倍数性を解析し、1PN胚が胚移植の対象となり得るか検討を行った。
【材料・方法】2009年9月23日から2010年8月16日の間に採卵した周期の受精卵のうち、1PN胚の割合はIVFが4.7%(330/6972)、ICSIが7.3%(201/2739)であった。分割が得られた胚はIVFが83.9%(277/330)でICSIが92.0%(185/201)であった。胚盤胞発生率は33.5%(77/230)で、ICSIが16.0%(27/169)であった(表1)。1PN胚由来の胚盤胞のうち患者の同意が得られた、IVF 1PN胚41個、ICSI 1PN胚11個を研究対象とした。妻の採卵時平均年齢はIVFが34.2±4.3歳でICSIが34.4±3.2歳であった。胚盤胞の透明帯を0.8%プロテアーゼにて溶解し、細胞を全て固定した。解析はFISH法にて行い、probeにはVysis社のCEP 18/X/Yを用いた。
【結果】IVF 1PN胚由来の胚盤胞は84.6%(33/39))が2倍体であった。2.6%(1/39)が半数体、7.7%(3/39)が半数体と2倍体のモザイク、5.1%(2/39)が無秩序なモザイクであった。2個はシグナル不良で判別できなかった。ICSI 1PN胚由来の胚盤胞は45.5%(5/11)が2倍体であった。9.1%(1/11)が半数体、27.3%(3/11)が半数体と2倍体のモザイク、18.2%(2/11)が無秩序なモザイクであった(表2)。2倍体はIVFで有意に高い割合であった(P<0.05)。
【考察】IVF 1PN胚由来の胚盤胞は2倍体の割合が高いため、移植対象となり得るかもしれないことが示唆されたが、ICSI 1PN胚由来の胚盤胞は2倍体が約半数のため、移植対象とするのは慎重になるべきである。胚盤胞発生率はIVF 1PN胚および ICSI 1PN胚ともに低いこと、および分割期胚の解析結果と比し2倍体胚の割合が高いことより、胚盤胞までの発生過程において、ある程度染色体異常胚が淘汰されていると考えられた。