診療・治療
【目的】ATP生成の主要な役割を担うミトコンドリアの機能障害の原因として、ミトコンドリアDNAの変異が知られているが、それ以外にもミトコンドリアを標的とする核DNAの変異が存在する。一方、卵母細胞内のミトコンドリア機能低下による胚発生能の低下が不妊の原因となる可能性が考えられることから、本研究ではこれらの遺伝子変異に起因する不妊を網羅的に解析することを目的とした。
【方法】ART反復不成功患者30名、および正常出産コントロール11名を対象に全ゲノムシーケンス解析を行った。ART反復不成功患者30名のうち、その後のARTにて妊娠出産に至った11名とコントロール10名の計21名を出産群、その後も妊娠出産に至ってない19名を不妊群とした。不妊に関連する遺伝子変異を検索する目的の一つとして、ミトコンドリアゲノムデータベース(MitoCarta)による1,136のミトコンドリア関連遺伝子のうち、出産群に存在しない遺伝子変異を抽出した。さらに、東北メディカル・メガバンク機構の14KJPNデータベースを用い、アリル頻度0.1以下かつPolyPhen2、SIFT、MutationTaster、FATHMM、PROVEANによるバイオインフォマティクス解析のうち、4つ以上で有害と判定された遺伝子を抽出した。なお、本研究は英ウィメンズクリニックおよび岡山大学倫理委員会の承認を得て、JSPSによる基盤研究C:20K09620の一環として行った。
【結果】ECH1 (p.G217R), RDH13 (p.S32G), SLC25A41 (p.G144S), SURF1 (p.D202H), ZADH2 (p.K35N)遺伝子のミスセンス変異が検出された。14KJPNデータベース(SURF1 (p.D202H)に関しては情報なし)と不妊群のアリル頻度に有意な差は見られなかった(p > 0.05)。SURF1 (p.D202H)遺伝子変異においてはLeigh症候群との関連性が示唆されているが、不妊群19名のうち2名(22.2%)がホモ接合体でこの変異を有することが判明した。両患者はいずれも30回以上のART不成功後に治療を断念している。
【考察】SURF1はミトコンドリア内膜に局在し、ヒトの電子伝達系においてシトクロムcオキシダーゼ(COX)の安定化を維持するためのアセンブリ因子をコードしている。Leigh症候群を引き起こすSURF1の遺伝子変異は60種類以上報告されているが、今回検出されたSURF1 (p.D202H)ホモ接合型変異はLeigh症候群患者にも見られる一方で、SURF1欠損細胞にp.D202H変異を持つSURF1をトランスフェクションするとSURF1の安定性やCOX活性がある程度回復することから、SURF1 (p.D202H)とLeigh症候群との関連は中立的であるとする報告もある。しかしながら、SURF1の変異は、ミトコンドリアのATP産生能力を低下させるため、エネルギー需要が高い卵母細胞や受精胚においては細胞分裂や成長、発達に必要なプロセスが適切に行われず、胚発生が低下する可能性が考えられる。よってSURF1 (p.D202H)ホモ接合型変異については今後も注視する必要があると考えられた。また、今回見つかったECH1 (p.G217R), RDH13 (p.S32G), SLC25A41 (p.G144S), ZADH2 (p.K35N)遺伝子変異もミトコンドリア機能低下を引き起こす可能性が考えられることから、更なる研究が望まれる。