診療・治療
【目的】ATP生成の主要な役割を担うミトコンドリアの機能障害の原因として、ミトコンドリアDNAの変異が知られているが、それ以外にもミトコンドリアを標的とする核DNAの変異が存在する。また、卵母細胞内のミトコンドリア機能低下による胚発生能の低下が不妊の原因となる可能性が考えられることから、本研究ではこれらの遺伝子変異に起因する不妊を網羅的に解析することを目的とした。
【方法】ART反復不成功患者32名および正常出産コントロール12名を対象に全ゲノム解析を行った。不妊に関連する遺伝子変異を検索する目的の一つとして、1,136のミトコンドリア関連遺伝子を、ミトコンドリアゲノムデータベース(MitoCarta)から抽出した。さらに、東北メディカル・メガバンク機構の14KJPNデータベースを用い、アリル頻度0.2以下かつPolyPhen2、SIFT、MutationTaster、FATHMMによるバイオインフォマティクス解析で有害性が判定された遺伝子を抽出した。
【結果】SURF1 (p.D202H)のミスセンス変異が検出され、32名の患者のうち、この変異をホモ接合型で持つ患者が2名見つかった。両名とも30回以上のART不成功後に治療を断念している。
【考察】SURF1はミトコンドリア内膜に局在し、ヒトの電子伝達系においてシトクロムcオキシダーゼ(COX)の安定化を維持するためのアセンブリ因子をコードしている。Leigh症候群を引き起こすSURF1の遺伝子変異は60種類以上報告されているが、今回検出されたSURF1 (p.D202H)ホモ接合型変異はLeigh症候群患者にも見られる一方で、SURF1欠損細胞にp.D202H変異を持つSURF1をトランスフェクションするとSURF1の安定性やCOX活性は回復することから、SURF1 (p.D202H)とLeigh症候群との関連は中立的であるとする報告がある。しかしながら、胚発生阻害や着床後の胎児成長障害が起こる可能性は不明であることから、SURF1 (p.D202H)ホモ接合型変異については今後も注視する必要があると考えられた。